君は、笑うだろうか?
小学生の頃から、どれほどに母親や担任や、お節介な同級生に諭されようとも、頑固に自分の殻の中に篭り続けたこの僕。
この僕が、ただ一度の君の言葉で、これほどまでに―――
「動くと唇を奪うことになるよ。僕はそれでも構わないんだけどね」
ふふっ
以前の僕では、とても考えられないよね。
力の増した瑠駆真の腕に、美鶴は思わず呻き声を上げる。だが、それすらも瑠駆真を熱くさせる。
僕は変わるよ―――
僕は変わる。君も変える。
君がいるなら、僕はどれだけでも変わることができる。
「君がそれをどう思うかは君の勝手だ。もちろん受け入れてくれなんて言わない」
あの日あの時、君に告げた言葉に嘘はない。
だけど僕は、もっと君に、見てもらいたい――――
全身から湧き上がる熱に、軽い気怠さを感じる。
君が僕に見せてくれた、激しく真直ぐな瞳。それがアメリカでの僕を、どれほどに支えてくれたと思う?
君は知らないだろう。僕にとって、君がどれほどに必要な存在かということを。
ぼんやりと浮かび上がるのは、晩春の、朝の校庭。
昔の僕なら考えられなかった。でも、君のためなら、どれだけでも変わることができる。
このままずっと…… 好きなだけ……… 抱きしめていたい。
壁に押し付ける。身体を捻って顔を美鶴の後ろへ回すと、後頭部からうなじにかけて、唇が触れる。
「―――っ!」
ようやく顔を出した美鶴が、荒く息を吸う。
「はなせ……… よ」
放すもんかっ
瑠駆真は再び、美鶴の顔を腕の中へと押し込める。
ずっとずっと……… このままずっと、好きなだけ抱きしめていたいんだ。
全身が火照る。
そうだ、今なら誰も邪魔しない。聡はいない。あの霞流ってヤツだって、ココに来たことはない。
今はずっと、僕だけのモノだ―――
まるで腫れるような全身の膨張感に、痺れる。
唇などは、刺激物を食したときのような熱を帯びている。トクトクと、血流が激しく脈を打つ。
僕だけのモノだ。僕だけのモノにしたい。したいくらい好きだ。だから―――
「聡はいない……… いないんだ………」
瑠駆真の腕の中で必死に息苦しさと格闘しながら、美鶴は腕の力強さに身震いをさせた。
我を失った瑠駆真の狂態を、美鶴は一度だけ目の当たりにしたことがある。
これ以上彼を暴走させる言葉を吐くのは無謀だ。だが、かと言って宥めるような言葉など、美鶴に言えるワケがない。
どうすべきか思案しているところに、ひどく静かな声が響く。
「何とか言ったらどうだい?」
瑠駆真の声。だが寸分前の擦れるような、熱と艶を帯びた声とは違い、その声音は凍りついているようにさえ思える。
床を擦る微かな音。美鶴は思わず目を見開いた。
必死にもがいて顔を覗かせる。
視線の先に、聡の姿。
無意識に――― 瑠駆真を突き飛ばしていた。
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